傀儡の恋

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 ラクスとカガリからブリッジを追い出されたのは、キラに聞かせたくない相談をしているからだろう。それはわかるのだが、もう少し状況を考えてほしかった。
 せめて、もう一人誰かついてきてくれれば良かったのに。
 ラウがそんなことを考えていた時だ。
「あの人は……」
 不意にキラが口を開く。
「僕を憎んでいたのでしょうか」
 か細い声でそう問いかけられる。
「……少なくとも、私が覚えている限りは違うようだね」
 いや、あのときも間違いなく好ましく思っていた。ラウは心の中でそうつぶやく。
「ならば、なぜ……」
「自分の命が長くないと知っていたからだろうね。世界と共に心中しようとしていたのだ。その中には当然、君も含まれているよ」
 大切だからこそ、自分の手で殺したかったのか。あるいは殺されたかったのか。
 どちらにしろ、キラが本気で相手をしてくれなくては困る。
「そうでなかったとしても、彼が生き残る未来はない。会わないままだったならば何も死ななかっただろう。だが、出会ってしまった以上、嫌われるのが一番だと考えたのだろうね」
 あくまでも自分の考えだが、とラウは付け加える。
 もちろん、それが正解だ。
 だが、それを彼が知る必要がない。
「ただ、これだけは言えるね。ラウ・ル・クルーゼはアスラン・ザラが嫌いだった」
 彼の自分を基準に物事を考える性格が、と続ける。
「確かにその気持ちはわからなくもない。アスラン・ザラは精神的に子どもなのだね」
 世界は自分を中心に回っていると信じているのだ。
「三年前に見た光景は、彼に成長を促さなかったのかな」
 その言葉にキラは少しだけ悲しげな表情を作った。
「君が責任を感じる必要はない。すべては彼が自分で選択した結果だからね」
 今回のことも、それ以前のことも。そう続ける。
 第一、キラには素直に受け入れる以外の選択肢を彼は与えていないではないか。
 お互いに自我が確立していないような幼い頃ならばそれでも良かったのかもしれない。
 だが、今のキラにはキラの選択基準がある。
 三年前だってそうだ。自分の基準ではなく他の誰かに相談をしていればもっと別の結果が待っていただろう。
 もっとも、その相談を受けたのは《自分ラウ》だが。知っていて彼を煽ったことも否定しない。
 その上、パトリックではキラの存在を無視させようとしたはずだ。
 アスランはそこであきらめたのだろう。
 あきらめずにラクスをはじめとするもっと他の誰かに相談をして入れば打開策が見つかったはずだ。
 それができなかったのは、アスランの世界が瀬間かかったからだろう。それも彼の精神の幼さの証明ではないかとラウは思う。
 もっとも、これは今はどうでもいいことではないか。
「私は彼とは違う存在だ。だから、抱いている感情は微妙に異なっている。たとえば同じ『好意』でもね」
 家族愛なのか親愛なのか、あるいは情愛なのか。それは感情を伴わない経験だけを与えられたからだろう。
 それでも記憶があるから似たような感情に落ち着くことが多い。
 キラに対しても、とそう続けた。
「そうなんですか?」
「多分ね。どちらにしろ、私が最優先したいのは君の気持ちだから」
 まずはキラがこれからどうしたいか、それを考えてほしい。そういう。
「君がどのような結論を出そうとも、私は全力でサポートをするよ」
 それだけは忘れないでほしい。ラウはそう言って微笑む。
「はい」
 キラは小さくうなずく。
 ただ、その表情は今ひとつさえない。
 それは仕方がないことなのだろう。あまりに色々ありすぎた。それでも、彼に対する隠し事がなくなっただけいいのではないか。そう前向きに考えることにした。

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最遊釈厄伝